スイスの国旗:赤十字マークとの意外な関係、そして「正方形」になった本当の理由

スイス_国旗

赤い正方形に、白い十字。

世界中でひと目でそれとわかる国旗のひとつが、スイスの国旗です。

実はこの国旗、「なぜ正方形なのか」が法律で明記されたのはつい最近のことだったり、あの「赤十字」のマークと深い関係があったりと、意外と知られていない雑学がたくさん詰まっています。

今回はスイス国旗のルーツから、他の国にはない珍しいルールまで、じっくり掘り下げていきます。

スイス国旗の基本データ

正式名称スイス連邦
面積約41,285km²(九州よりやや小さい)
人口約880万人
首都ベルン
国旗の縦横比1:1(正方形)※国連加盟国でバチカンと2ヶ国のみ
十字の比率が法制化された年1889年
正方形であることが法律に明記された年2017年

赤地に白十字:1339年、戦場で生まれた目印

スイスの白十字のルーツは、中世の戦場にまでさかのぼります。

1339年、スイス誓約者同盟軍とハプスブルク家などの連合軍が激突した「ラウペンの戦い」で、同盟軍側の兵士たちが敵味方を見分けるため、鎧や旗に白い十字を縫い付けたのが始まりとされています。

当時はまだ統一された国旗ではなく、各州(カントン)ごとにバラバラの意匠が使われていましたが、白十字は次第に「スイスの戦士」を象徴するシンボルとして定着していきました。

赤色が選ばれた理由については諸説あり、当時の軍旗に多く使われていた色だったという説や、キリスト教における殉教・犠牲を象徴する色だったという説などがありますが、実は今でも「なぜ赤なのか」を断定する一次史料は見つかっておらず、スイス国内でも完全には解明されていない謎のひとつなんです。

興味深いのは、1798年から1803年にかけてナポレオンの影響下で成立した「ヘルヴェティア共和国」の時代には、フランス国旗を意識した緑・赤・黄の三色旗が使われていたこと。

今の赤地に白十字のデザインに戻ったのは、1815年のウィーン会議でスイスの永世中立が国際的に承認された前後のことでした。

なぜ正方形なのか?法律で定められたのはまさかの2017年

スイス国旗最大の特徴といえば、なんといっても「正方形」であること。

世界の国旗の9割以上は横長の長方形ですが、スイスは国連加盟国の中でバチカンと並ぶ数少ない正方形国旗の国です。

この正方形という形の起源は、19世紀の軍旗の伝統にあります。

1840年、スイス連邦として初めて統一された軍旗が制定された際、正方形のデザインが採用されました。

以来、軍隊の旗として正方形の白十字旗が使われ続け、それがそのまま「事実上の国旗」として定着していったのです。

ところが驚くことに、この正方形という形が法律で正式に明文化されたのは、なんと2017年。

それまでスイスには国旗の形状を定めた包括的な法律が存在せず、あくまで「慣習」として正方形が使われ続けていたにすぎませんでした。

一方で、白十字の縦横比(腕の長さと幅の比率)については、それより100年以上前の1889年の連邦決議ですでに規定されていました。

「十字の形」が先に法制化され、「旗全体の形」が後から追いついたという、少し変わった歴史をたどっているわけです。

赤十字(国際赤十字)はスイス国旗の色を反転させたもの

「赤十字」のマークを見て、スイス国旗と似ていると感じたことはないでしょうか。それもそのはず、国際赤十字のシンボルは、スイス国旗の配色を単純に反転させたものだからです。

1863年、スイス人実業家アンリ・デュナンは、戦場での負傷者救護の惨状を目の当たりにした経験から国際赤十字を創設しました。

その際、母国スイスへの敬意を表して、国旗の「赤地に白十字」を反転させた「白地に赤十字」を組織の象徴として採用したのです。

つまり赤十字は、スイス国旗があってこそ生まれたデザインということになります。

日本では「赤十字=医療・救護」というイメージが強く、逆にスイス国旗を見て「赤十字みたいだ」と誤解されることも多いのですが、歴史的には順序が逆というわけですね。

国旗なのに「長方形」になる場所がある?

「スイス国旗=正方形」と紹介してきましたが、実はいくつかの例外があります。

まず船舶用の旗(船籍旗)です。

1953年に制定された海事法により、スイス船籍の船が掲げる国旗は他国と同様に長方形(比率2:3)と定められています。

国際的な海上のルールでは、正方形の旗は視認性や運用面で扱いにくいという実務上の事情が背景にあると考えられています。

また、航空機の識別に使われる場合や、国際的なスポーツイベントでも長方形バージョンが使われることがあります。

象徴的な例が2004年のアテネオリンピックです。

国際オリンピック委員会(IOC)は開会式の入場行進で使用する旗の規格を統一するため、加盟国・地域に長方形の国旗を用意するよう求めました。

これによりスイス選手団も、この大会に限り長方形にアレンジされた国旗を掲げて入場しています。

上下を間違えようがない国旗、偽物には懲役刑も

正方形で十字が中央に配置されたスイス国旗は、上下左右対称なデザインです。

そのため「旗を逆さまに掲げてしまう」という、他国の国旗ではよくある失敗が原理的に起こり得ません。

掲揚の際に向きを気にしなくていいという、実はとても実用的な国旗でもあるのです。

色にもこだわりがあり、スイス国旗の赤色は国際的な色見本帳でPantone 485Cに近い色とされることが多く、これは偶然にもマクドナルドのロゴやレゴブロックの赤色と近似する色合いです。

また、スイスでは国旗や国章の不正使用・偽造に対して連邦法(紋章保護法)で罰則が定められており、営利目的で国旗や紋章を無断使用した場合、最大で禁錮刑(懲役に相当)が科される可能性があります。

「たかが旗」と侮れない、国家の象徴としての重みが法律にも表れています。

「国旗投げ」という伝統競技があるって本当?

スイスには「ファーネンシュヴィンゲン(Fahnenschwingen)」と呼ばれる伝統的な国旗パフォーマンスがあります。

これは大きなスイス国旗を空中に投げ上げ、回転させながらキャッチする技を披露するもので、なんと99種類もの技(型)が体系化されているといわれています。

もともとはスイス相撲「シュヴィンゲン」の祭典で余興として披露されてきた伝統文化で、現在でも各地のお祭りやスイス相撲の大会で、力強くも優雅な旗さばきを見ることができます。

国旗を単なる象徴ではなく、体で表現する文化にまで昇華させているのは、スイスならではの国旗愛といえるかもしれません。

バチカンと並ぶ「正方形国旗」仲間

先述の通り、国連加盟国の中で正方形の国旗を採用しているのは、スイスともう一ヶ国だけ。

それが世界最小の国家、バチカン市国です。

バチカンの国旗も黄色と白の二色に紋章をあしらった正方形デザインで、宗教的な権威の象徴として独自の成り立ちを持っています(バチカンの国旗の記事はこちらで詳しく解説しています)。

同じ「正方形」というカテゴリでも、軍旗の伝統から生まれたスイスと、教皇庁の紋章文化から生まれたバチカンとでは、その背景がまったく異なるのも面白いポイントです。

まとめ

スイスの国旗は、中世の戦場での目印から生まれ、19世紀の軍旗文化を経て、2017年にようやく「正方形」であることが法律で明文化されるという、意外と新しい歴史の一幕を持つ国旗でした。

さらに、国際赤十字のシンボルの起源にもなっているという事実は、多くの人にとって新しい発見だったのではないでしょうか。

上下対称で掲げる向きを間違えようがないという実用性も含め、シンプルながら奥深い国旗のひとつです。

国旗の形や色をどれだけ覚えられたか、ぜひノーマルモードのクイズで力試ししてみよう!

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