青・赤・青の三色に、白く浮かび上がる荘厳な建物のシルエット。
東南アジアの国カンボジアの国旗は、実は世界の国旗の中でも極めて珍しい特徴を持っています。
それが「実在する建造物」が描かれた、世界で唯一の国旗だということ。
しかもこの国旗、20世紀だけで実に7回もデザインが変わるという激動の歴史をたどっています。
今回はカンボジア国旗にまつわる意外な雑学を掘り下げていきます。
カンボジア国旗の基本データ

| 正式名称 | カンボジア王国 |
| 面積 | 約18.1万km²(日本の約半分) |
| 人口 | 約1,700万人 |
| 首都 | プノンペン |
| 現行国旗の制定年 | 1993年(原型は1948年) |
| 描かれている建造物 | アンコール・ワット(12世紀建立) |
世界で唯一、実在する「建造物」が描かれた国旗
世界には人物や動植物、天体などをモチーフにした国旗は数多くありますが、実在する具体的な「建物」をそのまま描いた国旗は、地球上でカンボジアただ一つだけです。
描かれているのは、12世紀にクメール王朝によって建立されたヒンドゥー教寺院(後に仏教寺院としても使用)、アンコール・ワット。
1992年にはユネスコの世界文化遺産にも登録された、カンボジアを代表する史跡です。
国旗の中でアンコール・ワットが白く描かれているのは、カンボジア国民の9割以上が信仰する仏教を象徴する色だからとされています。
単なる観光名所ではなく、国のアイデンティティそのものを一枚の旗に凝縮したデザインといえるでしょう。
20世紀だけで実に7回変更:激動の政治史を映す国旗
現在の青・赤・青の三色にアンコール・ワットという組み合わせは、もともと1948年(フランス保護領時代末期)に制定されたデザインです。
しかしカンボジアはその後、王政・共和制・急進的な社会主義体制・他国の後ろ盾を受けた政権交代など、目まぐるしい政治変動を経験し、そのたびに国旗も姿を変えてきました。
1970年、ロン・ノル将軍によるクーデターで王政が倒れ「クメール共和国」が成立すると、国旗は青地に赤いカントン(旗竿側の四角形)とアンコール・ワット、3つの星をあしらったデザインに変更されました。
1975年には共産主義勢力クメール・ルージュが政権を掌握して「民主カンプチア」を樹立し、国旗は再びデザインを一新。
1979年には隣国ベトナムの後ろ盾を受けた「カンプチア人民共和国」が成立し、また新しい国旗に。1989年の「カンボジア国」への改称でも国旗は変わり、ようやく1993年、国連の暫定統治下での総選挙を経て王政が復活した際、1948年当時のオリジナルデザインがほぼそのまま復元されました。実に半世紀弱の間に、少なくとも7つの異なる国旗が掲げられてきたことになります。
大量虐殺政権クメール・ルージュの国旗にも、アンコールワットは残された
この国旗変遷の歴史の中でも、とりわけ重い意味を持つのが1975年から1979年にかけての「民主カンプチア」時代です。この時期、ポル・ポト率いるクメール・ルージュは急進的な農業共産主義を掲げ、都市住民の強制移住や知識人の粛清などにより、推定150万人~200万人ともいわれる自国民の命が失われました。カンボジアの歴史の中でも、最も暗い時代のひとつです。
ところが、この時代の国旗を見てみると、赤一色の地に、黄色く簡略化されたアンコール・ワットのシルエットがしっかりと描かれています。伝統や宗教、王政の象徴すら徹底的に否定しようとした体制でありながら、なぜかアンコール・ワットのモチーフだけは国旗から取り除かれることがありませんでした。それだけこの建造物が、政治体制を超えてカンボジア人としてのアイデンティティに深く根付いた象徴だったことがうかがえます。
塔の数は3つ?5つ?|政権によって微妙に変わっていた細部
実際のアンコール・ワットには5つの塔(尖塔)がありますが、国旗に描かれる際、正面から見える形として簡略化され、時代によって塔の数が変わっているのも面白いポイントです。現行の国旗をはじめ、多くの時代のデザインでは西側の正面から見た際に見える3つの塔として描かれていますが、1979年から1989年の「カンプチア人民共和国」時代の国旗では、5つの塔すべてが描かれたバージョンが採用されていました。同じ「アンコール・ワットを描く」という点は共通していても、細部のディテールにまで政権ごとの解釈の違いが表れていたわけです。
色の意味|青は王室の権威、赤は国民の忠誠
国旗上下の青色は、立憲君主制国家であるカンボジアの王室(現在はノロドム王家)の権威を象徴するとされています。一方、中央の赤色は、国王・国家に対する国民の忠誠心を表すといわれています。白いアンコール・ワットと合わせて、宗教(仏教)・王室・国民という、カンボジアという国を構成する3つの要素が、一枚の旗の中に凝縮されているのです。
まとめ
カンボジアの国旗は、世界で唯一「実在する建造物」を描いた国旗という珍しい特徴を持ちながら、その背後には王政の崩壊、大量虐殺、外国の介入といった激動の20世紀史が刻まれていました。どんな政権であってもアンコール・ワットだけは描き続けられてきたという事実は、一つの建造物が国民のアイデンティティをどれほど強く支え続けてきたかを物語っています。
ほかの国の国旗についても、クイズ形式で楽しく学べるノーマルモードでぜひ試してみてください。